ザ・フライ
―― 吐き気のする気持ち悪さの中に隠された、一途な愛の悲劇。
天才科学者セス・ブランドルは、女性雑誌記者ベロニカの密着取材の下、物質転送装置の実験の最終段階を迎える。ベロニカの言葉をヒントをついに世紀の大発明は完成した。はずだった・・・
セスを愛し始めたベロニカは元彼の編集長のところへけじめをつけに出かけるが、セスは誤解して自棄(やけ)を起こし、自ら実験台として転送装置に乗り込んでしまう。が、そこには一匹のハエが混在していた。やがてセスの身体は日増しに変貌していき、恐ろしい姿に・・・
50年代の『蝿男の恐怖』のリメイク、こちらも違う意味で凄い。これは別の機会に書きたい。
『ザ・フライ』はSFXの技術もすごいが、おどろおどろしいデザインの転送装置(愛称テレポット)や、遺伝子操作やコンピュータ・プログラムなどの最新科学を道具立てに使い、荘厳な音楽で見る人を圧倒させる。気持ち悪いのに、何度も見てしまうのは何でだろう。
まず、よけいなつっこみを2つ。
(1)人間の身体の中って、いろんな生物がいるはず、大腸菌やビフィズス菌やいろんな寄生虫など。遺伝子は決して人間とハエだけではない。こいつらとも融合していたとしたら・・・
(2)フロッピーからハードディスクにファイルを「コピー」したことありますか? ではファイルを「移動」したことありますか? 「移動」というのは、ファイルをコピーした後、元のファイルを消すのです。
つまり物質転送の原理は、分子レベルの解析をして転送先に情報を送った後、元の物質を壊しているのです。
(もし元を壊さなかったら、この映画は「ザ・クローン」になってしまう)
ですので、この実験も、万一の事故を考えて元の物質の情報を消さないでバックアップしておけば、元に戻れたはずなのに。大事なデータを消してしまった時のあの喪失感、絶望感を思い出します。
SFホラーであるが、上に挙げたきらびやかな道具立てを取り除くと、愛を信じることのできなかった男の悲しい物語が浮かび上がってくる。
人付き合いの苦手なセスと、そこに母性愛を感じたベロニカは相思相愛の仲になる。しかし小さな誤解がセスに異常な嫉妬心、憎悪感を起こさせる。一度壊れた関係は決して元には戻らず、セスは愛の代償を求めて女を探し続ける。やがて病に伏したセスはベロニカを呼び戻す。しかしすでにセスの身体は蝕まれており、絶望のあまり心中を企てるが失敗、セスは一人死んでいく。
愛するからこそ嫉妬もするし、憎悪も起きる。 失った愛をどうしても取り戻せない苦悩。 愛は相手を平気で傷つける。 相手を犠牲にしてもいいのか? 愛って、そんな美しいものではない。 どろどろとした愛。 これが隠しテーマ?
愛と言えば、ベロニカのセスへの思いも悲しいほど純粋で、最後まで彼を見捨てなかった。
こちら側だけを見ても悲しいラブ・ストーリーに仕上がっている。
[蛇足]
実生活でこの二人は結婚したが、今は離婚していて、彼女には新しい旦那との間に子供がいるとのこと。人生いろいろ。
[追記]
友人曰く。この映画は、失恋して修復できない関係の中で、嫉妬と憎悪に狂い、ますます深みにはまって行く人間の醜さと、それを凝視しているもう一人の冷ややかな自分を描いている、らしい。
そう言えばカフカの『変身』も突然巨大な芋虫になった自分と世の中との関係にギクシャクしながらも、意外と冷静に見ている。小説だから何とか読めるのだが、これを映像化するのは可?不可?
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
『スキャナーズ』 『デッドゾーン』
出演:ジェフ・ゴールドブラム
『ジュラシック・パーク』 『インデペンデンス・デイ』
ジーナ・デイヴィス
(1986・アメリカ)
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