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サイコ(1960・1998)

――オリジナルは白黒で露出が少なく、リメイクはカラーで露出は少しだけ増やす。でもこれはカメラの話ではない。映画の話だ。

[ネタばれ注意!]
サスペンス映画の話。
正しい見方は、何の予備知識も持たず、映画館に一人で見に行くことです。
この『サイコ』は特にそう。もしまだ見ていなかったら、ここから先は読まないで、せめてレンタルで借りてきて、部屋を暗くして一人で鑑賞することをお勧めします。
家の人から変な目で見られること、間違いない!
では、お話させていただきます。

『サイコ』は、ヒッチコックのオリジナル以外にも続編が4まで作られ、今日の様々な異常犯罪映画の源流と言っても過言ではないだろう。しかしこの98年版リメイクは、冒頭で述べたようにカラーで、露出が少しだけ多い以外は、ほとんどオリジナル通り。まるで絵画の模写を見ているようだ。文字通り、リメイク―作り直しをした訳だが、オリジナルのシーンや解釈を何も加えず、何も引かず、まるでウィスキーの山崎みたいな作品だった。『ダイヤルM』『裏窓』等のヒッチコック・リメイクが、現代的なアレンジをして多少なりとも自己主張しているのとは好対象。

聞くところによれば監督は、現代の若い世代に名作『サイコ』をカラーで再現して見せたかったらしいが、その思惑通りにいったのだろうか? 初めて見た人には、それなりにインパクトがあっただろう。でも、オチそのものは、拍子抜けしたというか、あまり新鮮味を感じなかったのでは?

『サイコ』は殺戮シーンの露出が少ない。振り上げるナイフは映されるが、相手を撮らない。かん高い効果音と共にサクサクと刺さる音だけが耳につく。まるで観客である自分に向かって来る錯覚を覚える。血だらけの体も撮らない。流れていく血だけが見える。それすらもオリジナルは白黒で、生々しくない。ヒッチコックはこの生々しさを嫌って、あえて白黒映画にしたらしい。こうした演出がかえって想像力を膨らまし、逆に恐怖心をあおった。冒頭で述べた「部屋を暗くして一人で鑑賞する」効果をオリジナルは十分計算している。

最初、持ち逃げのOLが主人公かと思ったのに見事に裏切られる。探偵の登場で彼に期待を寄せるがこれも裏切られる。ノーマンでもなく、真の主人公は意外なところに隠れていた。映画を見るときは、無意識に主人公に感情移入して見ているはずだが、この映画はそれを許してくれない。第3者として見ようにも、その自分にナイフが向かって来る。これでは落ち着いて見ていられない。これも計算か?

リメイクも基本的にはオリジナルの良さを踏襲している。カラーになり、シャワー・シーンでの露出度も多少多かったが、ほんのサービス程度。基本線は守っている。それでも私は、どうしてもオリジナルに軍配を上げてしまう。同じストーリー、同じ音楽、同じテーマで作っても、どうしてこうも感じ方が違うのか?
ノーマン・ベイツはアンソニー・パーキンスが演じないと許せないという方もいるだろう。でもリメイクの役者もそんなに悪くは無い。まずまずの出来だと思う。

オリジナルの1960年公開当時は、生々しい表現はタブーだったのだろう。それが想像力を刺激し、効果を上げた。でも最近では毎日どこかのチャンネルでサスペンスドラマがあり、体にナイフが刺さるシーンが露骨に表現され、血まみれの死体が大写しになる。殺人の直接表現の方が『サイコ』の間接表現より安心して見ていられる。これって何かが変じゃないのか?

オリジナルは白黒映画だったために、映画の中に浸れる。部屋を暗くして一人で怖がって見ても所詮は映画の世界。明かりをつければ平和な日常に戻れる感じがする。リメイクはカラーであるためにテレビ感覚で見ており、その延長のニュース番組や日常のもっと異常な事件とついつい比べてしまうのだ。

60年当時は、きっと今ほど異常心理に関する事件は少なかったと思われる。ラストの心理学者のくどい解説は、今ならみんな常識的にわかる。あれから40年、異常心理はスクリーンを飛び出して、茶の間のニュース番組を賑わしている。言うなれば現代は、日常がすでにサイコ状態なのだ。今さら映画で見せても何の刺激にもならない。だからリメイクはつまらないのだ。

定点観測という言葉がある。町の様子を写真で取る。数十年後、また同じ場所、同じ角度で写真で取る。そうすることで町の変化がわかる訳だ。この2つの『サイコ』はまさに定点観測の映画。変わったのは『サイコ』(カメラ)ではなく、映っている我々(町の様子)の方なんだ。リメイクはつまらなかったが、定点観測という意味では成功した企画だったのかもしれない。
でもこれはカメラの話ではない。映画の話だ。

(1960アメリカ)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:アンソニー・パーキンス, ジャネット・リー 

(1998アメリカ)
監督:ガス・ヴァン・サント 《誘う女》
出演:ヴィンス・ヴォーン,アン・ヘッシュ

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コメント

はじめまして。
面白い切り口ですね~。
ウィスキーの山崎のCMみたいって、確かにそうでしたね。
ほぼ完璧にリメイクされていましたが、シャワーシーンが生々しい表現になっていて、逆にそれに違和感を覚えました。ぜんぜん怖くない・・・。やっぱりヒチコックの、心のうちに迫ってくる恐怖がこの作品では全く表現されていませんでした。残念。
TBさせていただきますね。

投稿: shake | 2005.06.12 20:37

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