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Shall we ダンス?

――遠慮しないの!遠慮していたら何も伝わってこないでしょ? 恋愛もダンスも最初の一歩が肝心。

仕事帰りの電車の外でビルの窓辺に立つ女性、
いつも遠くを見つめる瞳が、気になり今日も外を見上げる。

過去数十年の通学・通勤の時間に、こんな経験は皆無である。
ただ言われてみれば、ダンス教室はよく電車から見えるし、もしこういう場面が仮にあったとしたら、自分が幸せだろうが、不幸せだろうが、人生に疲れていようが、幸せに飽きていようが、とにかく彼女のことが気になるだろう。そしてついには途中下車して未知の門をたたいてしまうに違いない。
主人公杉山の心情に自分がピタリとシンクロしてしまう。
(もしこれがヨガ教室や英会話教室でも同じだが、空手道場でも門をたたくだろうか?)

果たして気になる彼女(舞)はオーラを放ち、近寄りがたい存在であった。
(草刈民代の表情は硬く、演技に馴染んでいない様子で周りから浮いて見えた。それが演出効果かどうか、結果的に観客は彼女との距離感を意識してしまう。)
杉山も何日目かに、ようやく舞から指導を受ける。これはチャンスとばかり、思い切って食事に誘うが、キツイ言葉で断られてしまう。普通ならここで辞めてしまいそうなものの、彼はダンスを続ける。

彼女にも苦い過去があり、そのわだかまりが清算できていないというのが、だんだんわかってくるが、ようやく笑顔を見せるのは、小さな女の子が一生懸命踊っているところを見た時だった。
大会が近づき、杉山は再び舞から指導を受けることになる。
「遠慮しないの!」 舞が今までに無いような大きな声で叫ぶ。
「リーダーはね、体全体を使って相手にどう出るのか伝えなくてはいけないの! 遠慮していたら何も伝わってこないでしょ?」
やる気を失せていた舞が目覚める瞬間であるが、同時に草刈が映画の中で息づいた瞬間でもある。

そして冷たく見えた舞(草刈)の表情が、どんどん豊かになって行く。
白板を前にして凛として大会への緻密な戦術を説くあたりや、誰もいない教室で何も考えずに一人で楽しそうに踊っている様子、どの場面も彼女の魅力を存分に引き出している。

脇役もみんな生き生きしているし、演技もダンスもすばらしい。
特に大会で竹中演じる青木が「カツラなんか気にしているからよ」と言われて、カチンと来てカツラを床にたたきつけ、まるで別人のように踊りに気合いが入るところ。たま子先生の「カツラが取れて・・・」の台詞は涙が出てくる程決まっていた。

大会が終わり、彼女は一から出直そうと留学を決意する。
お別れパーティーで、杉山を待つ彼女の憂鬱とした表情。パーティーに行こうかどうか迷いつつ、パチンコで時間をつぶす杉山。どちらも描写が細かく、うまいなぁと思う。
「舞さんのラストダンスのお相手は?」 そして大団円。

ストーリーの中で唯一嘘っぽい存在、りアリティがないのが大人しすぎる杉山の奥さん。
浮気を確信して興信所にたのむのもアリだし、ダンス教室に通っていると知ってもまだ疑心暗鬼なのもアリだろう。浮気の相手が「ダンス」だったと知って「でもやっぱり浮気だわ」というのも正しい。
でも家庭内のゴタゴタは、こんなきれいごとでは済まないはず。そんな健気な奥さんおらへん!
リメイク版がそこに気づいたのかどうかは知らないが、夫婦愛に重点を置いたそうだが、そうなるとこの映画が描きたかったことと別物に変わってしまう。(だからまだ見ていない)

嘘と言えば、私は杉山にシンクロした結果、彼の無意識の嘘にも気づいてしまった。
「あなたを見返してやろうと思って続けているうちに、本当にダンスが好きになってしまった」
本当にダンスが好きになってしまった~? はあ? 
だったらなんで大会が終わってからもダンスを続けないんだよ~と、ツッコミを入れたくなる。
彼女の憂鬱な表情に魅せられてダンスを始め、ダンスに熱中することが彼女を助けることになる。そんな図式を彼は全く気づかないはずはない。少なくても大会で奥さんに見られた瞬間、気づいたはず。
お別れパーティーに行こうとしなかったのも、舞への言い得ぬ思いがあるからだ。

女性からはこの映画って、どう見えるのか? 舞にシンクロして見ているのかな?
この映画は舞が本当の意味での主人公で、一人の中年男性との出会いをきっかけにした彼女の成長物語なのである。彼への手紙には、誰にも打ち明けることのなかった舞の内心が素直に書かれてあった。
自分を立ち直らせてくれた中年男性への感謝と信頼と淡い恋心?そして別れ・・・
その万感の思いが最後の舞の「Shall we ダンス?」の言葉に込められている。それは恋とは言えないかも知れないが、明らかに、許されない男と女の物語なんだから・・・

[蛇足]
主人公杉山は、周防監督の分身でもあるはずだ。
ふと電車の窓からダンス教室の看板を見て、引寄せられた思い。
バレリーナ草刈民代との出会いと距離感。肘鉄をくらったかどうかは知らないけど、その後の彼女との距離がどんどんと縮まり、映画にはないハッピーエンド!
下世話な話で申し訳ないが、監督の内面と映画の展開が見事にシンクロしている感じだ。
今度はぜひ、彼女との家庭を題材にしたラブコメディー映画を作って欲しいと、心待ちしている。

出演:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、草村礼子
監督:周防正行 『ファンシーダンス』 『シコふんじゃった!』
(1996、日本)

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コメント

最初は奥さんの存在が希薄だと思ったが、訂正したい。
奥さんは「でもやっぱり浮気だわ」と言いつつ、にこやかに?書置きをして旦那さんに「パーティに行ってらっしゃい」と送り出す。

そうなると旦那は物凄い葛藤に陥ってしまう。行くべきか、行かざるべきか? ハムレットの心境。そのどうしようもない重圧に負けて、パチンコ屋に逃げ込む。あれは単なる時間つぶしではない。地獄の責めの中にいたのだ。

結局行くわけだが・・・二人は奥さんの手のひらで踊っているような気もする。舞の感謝の気持ちを杉山は受け取る方を選んだけど、あのラストダンスは、杉山と舞とのほろ苦い最後の別れ。

「勝ったのは我々(杉山、舞)ではない、奥さんだ!」

投稿: 電影道士 | 2005.07.06 01:46

「つっきーの徒然草」から参りました、つっきーと申します。
トラックバックとコメント、ありがとうございました。

私もこの映画を観たときに感じたのは「杉山の確信犯的な恋心」でした。
奥さんにダンスを習っていることをひた隠しにしているところ、奥さんに見つかった途端、ダンスを辞めると言い張るところ、そういったシーンに杉山の「舞先生への恋心」を封じ込めなきゃという、切実な思いを感じました。

最終的に奥さんが「寛容」に夫を送り出せたのは、舞先生がイギリスへ渡ると知っていたからではないでしょうか?
杉山も舞先生と踊れるのはこれが最後だと思ったから、電車から見えた横断幕に背中を押されるようにパーティ会場へ向かったのでしょう。

「本当に勝ったのは奥さんだ」と言い切れるかどうかは、舞先生がイギリスに旅立った後も杉山がダンスを続けたかどうかだと思います。
上手い具合に映画の中では描かれていないので、その後がどうなったのかはわかりませんが、もし杉山がダンスを辞めていたら、「舞先生への恋心の勝ち」、杉山が奥さんともどもダンスを続けていたら、「奥さんの勝ち」だなぁと思っています。

なんだかんだ言って、この映画は周防監督が草刈民代さんを美しく描きたかっただけという感じがして、「周防監督の恋心」を見せつけられちゃったという気がしてしまいますね。
そういう意味では、勝ったのは「確信犯の周防監督」かなぁと思います。(笑)

新しい観方へのヒントをご提示していただき、ありがとうございました。

投稿: つっきー | 2005.07.09 05:18

つっきーさん、コメントありがとうございました!
つっきーさんのブログを読ませていただいて、やっと奥さんの立場から見た作品の意味がわかった次第です。

リメイク版のコピーで「幸せに飽きたらダンスを習おう!」だと、最初から浮気だと認めていることになりますネ。

まあ、これくらいは浮気ではないと思いますが、それ以上は「映画論」ではなく、「夫婦論」になってしまうので、言うのは止めておきます。

ちなみに周防監督のノベライズ版は、別のラストを用意したようですが、あまり読む気にはなりません。

いずれの作品もダンスのすばらしさを謳歌しており、場末のダンス教室(失礼!)でさえも輝いており、人々の思いは遠くブラックプールまで通じているのです!

>勝ったのは「確信犯の周防監督」かなぁと思います。

いや~、一本取られました! 全く、その通りですね。

投稿: 電影道士 | 2005.07.10 01:11

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