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亡国のイージス

――亡国への憂いがテーマなのに肝心の「国家」論が無い。甘いテロ対策への警鐘で終わってしまった。

あの膨大な原作を読まずに、映画館での上映があと数日で終わるギリギリに駆け込んだ。どなたかが「小説の総集編」と言うように、原作を見ないと意味不明のシーンが多いが、結局読んでもわからない部分もあった。冒頭の交通事故や通夜のシーン?はほとんど記憶にない。先任伍長が町でケンカをした部下たちのために警察に土下座する。「こいつらを勘弁してやってください。」みたいな事を言ったけど、これでは『ごくせん』のヤンクミだ。如月行のずば抜けた運動神経と、伍長の「ぶざまでもいいから生き抜け!」という人生哲学を物語る大事な場面。浪花節。しかしこれって、もみ消しだろう?少し部下に甘くないか?

溝口らFTGのメンバーが乗り込んで「いそかぜ」が運命の出航をする。夜の甲板の場面で如月が無口で芸術家タイプなのは理解できたが、20歳そこそこの青年が暗い過去と重い任務を背負った特別な存在だとわからせるには演技だけでは難しいね。その彼が唐突に事件を起こす。小説では事件の背景や人物像等が好き放題書いていたけれど、映画では意外とあっさり大事件が発生する。伍長にとって全てが唐突なのだ。訳のわからぬまま捕獲され、主犯格が正体を現わすと、ここからようやくテンポのいい展開になる。絶対絶命の条件下でどうやって乗っ取られた艦を取り返すか?入り組んだイージス艦の内部を縦横無尽に動き回り、まさに最新機器で囲まれたジャングルの中でゲリラ戦が展開される。いいぞ頑張れ真田さん!

『沈黙の戦艦』『ダイ・ハード』『ザ・ロック』等、冷血無慈悲な悪玉テロリストとの戦闘映画は枚挙にいとまがない。しかしこうしたテロリスト集団が相手ならともかくも、同僚の自衛官を相手の奮闘は伍長も煮え切らない。奪われた母艦を取り戻すため、首都東京の住民を守るためなのだが、そもそもどうして彼らは謀反を起こしたのか?政府への要求で一応の説明はついたものの疑問は残る。子息の内部告発文章と事故死に見せかけた暗殺、隠蔽された化学兵器事故について公表せよと言うが、こうしたみそぎを済ませれば単純に全て解決するのだろうか? 寺尾さんの『半落ち』のイメージが強い。いい人だけれど家族を大切にするために組織や社会を裏切る。その切なさと決意は伝わるが、どうも私憤の域を出ないと思われる。肝心のテーマであるはずの亡国への憂いとか理想の実現とかが小説でさえもきちんと描ききれていない。ヨンファも憂国の士のはずなのに、映画では「これが戦争だ!」と叫ぶだけの単純なテロリストだったし、小説でも妹の死を契機に凶悪な復讐鬼に成り下がっている。

人は何のために戦うのか? たとえば、先任伍長が奪われた母艦を取り戻すため、あるいは首都東京の罪もない一千万の命を守るため、あるいは大切な家族や友人を守るため。その気持ちが尊いことに間違いはない。その延長に祖国愛があってもいい。しかし「国家」とは常に守られるべき弱き存在ではない。時として戦争が始まれば「国家」の名の下に人々は徴集され、残酷な破壊活動に駆り出され、やがて首謀者の意図や制御を振り切って、相互の破滅へと突き進むこともある。ちょうどヨンファ亡き後も制御を失って東京へと突き進む「いそかぜ」のように。この映画に限らず、最近の戦争映画は、守るべき「国家」ばかりが強調しすぎるきらいがある。

『ザ・ロック』のニコラス刑事の時はもう少しスマートだったが、先任伍長はぼろぼろの体を引きづり、仰向けになって手旗信号で監視衛星に爆撃中止の合図を送る。最後の一か八かの賭けである。衛星からはコミカルな動きで、彼の必死の形相が見えてこない。でも「ぶざまでもいいから生き抜け!」という伍長の信念に私は泣けた。(防衛庁情報局ダイスの渥美さん、手旗信号くらい、すぐに解読しなさい)

最悪のシナリオは免れたものの、政府は東京湾に沈んだ「いそかぜ事件」を「無事に」隠蔽できたのだろうか?だとしたら艦長らが命がけで提起した命題は再び闇に葬られたことになる。ダイスは存続できるのか?そもそも事件の種を作り、情報を事前に入手したにもかかわらず、如月一人を送るだけで事件を阻止できなかった責任は重いと思う。不思議だったのは、化学兵器を盗まれた某国が表に一切出ようとしないこと。小説では日本に責任をなすりつける記述があったものの、腑に落ちない。違法な武器開発は他の国が指摘すれば大きな国際問題に発展し、両国のトップが辞任するだけでは済まないはずなのに後日談にそんな記述も懸念もない。要するに亡国への憂いがテーマなのに肝心の「国家」論が無い。結局甘いテロ対策への警鐘で終わってしまった。

監督: 阪本順治
原作: 福井晴敏
出演: 真田広之、寺尾聰、佐藤浩市、中井貴一、勝地涼
(2005.日本)

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●『亡国のイージス』127分。2005年7月30日公開3位→5位→5位→5位→9位→9位(9月4日)→圏外。和製版『沈黙の戦艦』みたいでスケールは大きいようで途中なんだか縮小した感じ。編集が唐突にアクション??っていうシーンがあったりでよーく....... [続きを読む]

受信: 2006.01.10 14:49

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