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ラストプレゼント―娘と生きる最後の夏

――天海祐希版『生きる』は、黒澤監督も描かなかった三つの家族の「赤い絆」を描く。  
 余命3ヶ月と告げられた36歳の女性が、離婚して一度は捨てた娘に残してあげられるものは? 

 『女王の教室』のラストで真矢は死ななかった。すでにこの『ラストプレゼント』で死に臨むヒロインを演じていたので、同じような結末を避けたのかもしれない。しかし暗黒面に落ちる前の真矢(つまりダースベーダーのエピソード1)のキャラは、たぶんこの明日香みたいな、明るく活発な、そして少々わがままで不器用な(?)女性だったのかも。そのどちらも天海祐希のイメージにピッタリ来るのがスゴイ。

娘役に進藤ひかる役の福田麻由子、父役に天童しおりの父役の平泉成が演じているのも真矢の前世? しかし死がテーマの連ドラはさすがに気分が重くなる。深刻な場面の合い間に、あだち充『タッチ』風の軽いユーモアが挿入されて、泣いたり笑ったりで忙しい。

[以下ネタばれ。見てから読むべし!]

 再々検査で余命3ヶ月と告げられた明日香は、他人事のようにただ「へぇー」「へぇー」を繰り返すリアルさ。世の中が突然引っ繰り返ったように、おぼつかない足取りで街をぶらつく。アイスクリーム屋の前でぼんやり食べる明日香に「10代の小娘」が「おばさん、携帯鳴ってるよ」と声をかける。

 明日香は建築事務所で働くバリバリの建築士。こわおもての所長、一番弟子の来実、同期の加奈子等等、アットホームな職場、まさに家族。あのサバイバルゲームや、プレゼンでのチームプレー、漏水事件等、遊ぶ時は遊ぶ、やる時はやる! 彼女が仕事を生きがいにしていたのは疑う余地も無い。初めて設計したステーキハウス、澤口先生を招いたおしゃれなレストラン…、「いい仕事してたんだなぁ」とつぶやく明日香。どんなにいい設計をしても建築なんて精々3、40年の寿命という言葉に自分の命を重ねる明日香。最後の設計となる市民会館の模型に納得が行かず、クライアントの目の前で叩き壊してしまう、あの無念さに心が痛む(後日リベンジに成功!)。自信喪失の来実を励ますために罵詈雑言を浴びせるところは、真矢の得意技。来実との別れに涙が滲む、「ありがとう・・・」が言葉にならない。――家族の絆その1。

 普段は電話もよこさないくせに、と言いながら突然帰って来た娘を喜ぶ田舎の両親。弟夫婦は妊娠9ヶ月で幸せ絶頂の最中、自分のことを一つも言い出せない明日香。声が大きく、開けっ広げで自分勝手なところは父親譲り。娘の秘密を知っても知らん振りして明るく振舞う父に、やさしさと不器用さが交差する。結局この最後の夏は、夏祭りや父のコンサートと何度も足を運ぶ。都会でどんなに快適な暮らしをしていても、幼い頃の自分を育んだ故郷の原風景は忘れられない。花火が宙に咲き乱れる橋の上で、明日香と歩が走り寄る場面は美しすぎて、涙が止まらない。明日太郎の誕生、逝く命と生まれ出る命――家族の絆その2。

 家族の絆その3は、離婚した聡と娘の歩、そして新しい妻との絆。これがメインだろが!と怒るなかれ。一番大事な言葉が最後にやっと出てくるのが、このドラマなのだから。

 母子共に危険な状態で産んだ娘だったが、仕事を捨てられずに夫と娘を捨てて出て行った明日香。ママに捨てられたトラウマで、笑うことを知らない歩。「歩に紹介したい人がいるんだ」という聡の言葉に「別に」「どっちでもいい」と返す決め台詞は進藤ひかるに引き継がれる。9歳の誕生日、もしやのママはケーキを置いて黙って帰ってしまう(道に叩き付けられたケーキは、最終回で復活することに)。

 娘に思いを告げたい明日香はサバイバルゲーム(皮肉な名前)に歩を連れ出して、怪我をさせてしまう。せっかく新しい家庭を築こうとする聡から見れば、明日香の行動は自分たちの邪魔ばかりする身勝手な女にしか見えない。しかし歩の気持ちを察した有里は、明日香との仲を取り持ち、挙句の果ては、身を引くことまで考えた。そんな有里に娘を託したい明日香は、「余命2ヶ月、もちろん多少の前後はありますが…」と告白する。多少の前後は・・・は医者の言葉をそのまま繰り返している。自分の言葉でかみ砕いて言っていないところに、おかしさと悲しさがこみ上げて、心がむせってしまった。

 歩の家出を機に4人の奇妙な同居生活「変奏新婚生活」が始まる。最後の明日香の誕生日。娘に告白できずに一日連れ回してうじうじする明日香(気持ちわかるな~確かに告白って大変だぁ)。業を煮やした有里が明日香を殴るシーン。「今グーで殴った!?末期ガン患者の私にグーで殴った!?」と明日香は逆切れするが、怒るところ違うだろ? しかも自分を正当化するのに今さらガンを盾に使うところがおかしいけど悲しい。

 最終回。元妻と新妻、捨てられた夫に、捨てられた蓮太郎が加わる。我を忘れて浜辺で遊ぶ明日香と歩を他の三人が見守る。最初は他人行儀だった明日香と歩が、いくつかの誤解やすれ違いを経てやっと本当の母娘になれた瞬間。そんな二人に振り回されっぱなしの三人。冷静に考えると、この擬似家族はかなり変。でも、いいじゃないの幸せならば・・・ 闘病生活に入る明日香は、最後に娘から戦う勇気をもらった。これこそがラストプレゼント、腕に結んだ赤いバンダナが家族の絆。黒澤版『生きる』で唯一言い残したのがこの家族の絆だったが、ここでは見事に描き切っていた。でも正直見るのがしんどいドラマだった。

[蛇足]
・黒板を背に「いい子に育ってくれてうれしい」と語る明日香は、『女王の教室』の夢オチの真矢。
・有里は「国宝級のお人よし」だが、芯の強い女性。このドラマの影の主人公。
・有里の乗る花屋の車のナンバープレートには4187、良い花。
・来実演じる須藤理彩は、NHK朝ドラ『天うらら』では大工だったね。
・元夫の佐々木蔵之介は、『離婚弁護士』『離婚弁護士2』そして『キッチンウォーズ』でも天海祐希と共演。

脚本:秦建日子
出演:天海祐希、福田麻由子、佐々木蔵之介、永作博美、要潤、須藤理彩、平泉成
(2004年、日本テレビ)

[関連作品]
『生きる』 監督:黒澤明
『キッチンウォーズ』 出演:天海祐希、佐々木蔵之介

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