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こころの湯

――北京の変わり行く下町の景観と、変わらないで欲しい下町の人情。

北京オフィス街のど真ん中、「コインシャワー」が登場? 服を脱いで個室に入ると自動的に水や石鹸が出てきて体を洗ってくれる! ミスターBOOのギャグ?なんて思っていると、場面は一転していきなり北京の銭湯が現れる。「どうだ、いいアイデアだろ?」これが銭湯での与太話だったのだ。いきなり技あり! つかみOK!
(あとでこのアイデアのヒントがさりげなく出てきて笑ってしまう。気がつきました?)

北京の銭湯の風景。アカスリやマッサージ、お茶を飲んだりしてのんびり寛ぐ客たち。日本と様子が少し違うけれど、懐かしい感じがする。コオロギを闘わせて熱くなり、意地の張り合いをする老人二人とか、シャワーを浴びながらオーソレミオを熱唱する若者、夫婦喧嘩ばかりしている旦那等、キャラが楽しい。

銭湯の主人リュウは、温和でありながら、銭湯での喧嘩をやんわり収めてしまうしたたかさ、ちょっと頑固な親父(『大地の子』の陸一心の養父を演じた朱旭が好演)。彼には、家を飛び出して経済特区の深圳で働くエリートの長男ダーミンと、知的障害を持つ次男アミンがいた。

ある日アミンからの絵葉書を受け取ったダーミンは、親父が死んだと勘違いして実家に戻る。アミンは寝ている父さんの絵を描いただけだった。ほっとしたダーミンは、父との距離感を感じつつも、しばらく滞在した。まぁこのあと、いろいろな事があって二人の間はしだいにほぐれて行く訳で、下町人情ってところだろうか。

弟アミンの存在も大きい。純粋な子供そのもので、ぎすぎすした大人たちをほぐして行く。ホースで水をまいてはしゃぐところ、道を歩きながら、棒で塀をがたがたさせながら歩くところ(電信柱を避けず、そのまま狭い所を入っていくところは演技賞もの)。あのオーソレミオの青年も極度の上がり症で、のど自慢で声が出なくなってしまう。どうしようもないピンチにアミンがホースで水をかける。すると、まさに水を得た魚のように、シャワーで歌っていた時のような美声が響き渡るのである。

リュウたち親子3人は、みんなが帰った広々とした銭湯で、親子水入らず?で湯船につかる。ターミンが電話に出ている間にリュウは突然息を引き取ってしまう。やっと親子の絆を確認できたばかりなのに。

まもなく街の再開発ということで、下町のオアシスとも言うべきこの銭湯が取り壊されることになる。コオロギに死なれて元気を無くす老人、引越しするオーソレミオの青年。「いままでお前のこと、妻に黙っていた。でも今度はお前を連れて行くよ。父さんも喜ぶだろう。」自分のことばかり考えていたダーミンが見せた弟へのやさしさ。下町に帰ってきて思い出した義理人情。からっぽになった銭湯。

この映画が製作されて早6年。北京オリンピックを控えて開発も急ピッチで進んでいるのだろうか。オリンピックと再開発と街の景観、それと下町風情。これらの因縁について因縁をつける訳ではないが、再開発の名の下に大事な何かを失わないだろうか? 思えばあのリュウ親子は、激変する中国の中で置いていかれる老人たちと、どうしていいのかわからない庶民、変わって行かざるを得ないトップたちを象徴しているようにも思える。でもどうかあの下町風情を忘れないでいて欲しいと願う。

監督:張楊(『スパイシー・ラブスープ』 )
出演:朱旭、プー・ツンシン、ジャン・ウー(『紅いコーリャン』 等のジャン・ウェンの実弟)
(1999.中国)

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