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はつ恋(田中麗奈)

――音痴でストーカー、ちょっぴり三枚目の田中麗奈の「おじさん改造講座」に、笑っている場合ではないと思わず背筋を伸ばしてしまった。 

定職も無く朝からパチンコ。税金すら払えずに、安アパートの部屋の隅でびくびくする毎日。ぼさぼさ頭に無精ひげ。こんな破綻寸前の中年男のところに、ある日見知らぬ娘が訪れてきた。裏窓からいつもの縄梯子で逃げるも、「藤木さ~ん!藤木真一路さ~ん!」と自分の名前を大声で呼びながら執拗に追いかけてくる・・・振り切ったと思いきや、パチンコ屋の中まで追いかけてきて、母に会ってくれませんかと言われる。

今度は娘を逆ストーカーしてつけて行き、大きな病院に入っていく。こうして彼女が自分のところに来た訳がわかってきた。しかしこのガキ本当に不躾な奴だ。理由も言わずにただ会えだと? 志津枝さんの病気が重そうなのはわかったけれど、第一彼女が本当に俺に会いたいと言ったのだろうか? 俺だってこんな惨めな毎日なのに今更会える柄じゃないワケだし・・・

翌日まだ朝早くあの娘がやって来た。
「志津枝さん、そんなに悪いのか?」「何で(知ってんの)?」「おあいこだろっ!」
「よし!見舞いついでだ、行くぞ!」「今はダメなの!夢が壊れる・・・」
「勝手にしろっ!」でゴロンと仰向けになる。

翌日また朝早くあの娘がやって来た。
「ジョギングしよっ!」 こうして田中麗奈演じる聡夏の「おじさん改造講座」が始まった。
「日頃の成果をさぁ、見せてやろうよ!」ってか?
ぶつぶつ文句を言う真田さんが可笑しい。足がもつれてルームランナーからぶざまに転げ落ちる姿に、こちらも椅子から笑い転げる。しかし私も笑っている場合ではない。あちらは演技だけど、こちらはマジヤバ。

聡夏、高二の春休み。初恋の人に告白もできず、落ち込む暇もなく、母の突然の入院。
聡夏の無表情の顔には重い現実を受け止める余裕すらない。
父と二人きりで食べる味気ない朝食。平凡で不器用でつまらない父親・・・
母は何でこんな男と結婚したんだろう?

余命幾ばくもない母の病状を何気なく覚った聡夏。
偶然母の封印されたラブレターを読み、内緒で初恋の人に会わせようと決め、そして行った事も無い母の郷里へと一人旅立つ。
地元の親切なタクシーの運転手白川さんのおかげで、思い出の地「願い桜」にたどり着く。あとは母の初恋の人、藤木真一路さんを探さなければならない・・・まるで何かに憑り付かれたように前へ前へと突き進む聡夏。

会うんじゃなかった、何でこんな男がお母さんの初恋の人なの? 聡夏は正直そう思った。でも汚いものを見る目からだんだん好奇心へ、そして一人の大人の男性への眼差しへと変化していく・・・
何でこんな変な奴が彼女の娘なのか? 藤木だってそう思った。でも彼女の健気なまでの強引さに幾ばくかの心地よさを覚え、いつしか死んだ自分の娘とダブり(シェーをさせてみる。その後泣いてなかったっけ?)、そして忘れていた家族の絆と生への希望を取り戻していく・・・
この二人のやり取りがごく自然で、少しずつ雪解けしていく爽やかさな早春を思い起こす。
「明日決行ね。お母さんとの再会だよ。」「必ず来てね!」
「あぁ」「大丈夫。ちゃんと行くから・・帰ってよろし!」「はい・・・」
すっかり立ち直った藤木の大人の貫禄に飲まれたのか、聡夏は急にいつもの元気を失い、雨の中を傘もささずに帰る。まるで失恋したみたいに・・・
そして翌日。結果はご覧の通り。

静心無く花の散るらむ。春の訪れと共に散っていく母志津枝の思いは如何に。
志津枝の内面には触れられていないが、娘へのメッセージは十分すぎるほど伝わってくる。
母はどうして父と結婚したか? 何でラブレターを藤木に出さなかったか? 後悔しなかったか? 母にとって幸せとは何だったのか。まさに『女の別れ道』である。

ラスト。三人で撮った最後の写真。家族の絆は永遠なり――
聡夏が満面の笑みからスーッとこぼれ落ちる涙にググっと来た。
それは形を変えこそすれ、願い桜の下で母の願いをかなえてあげられた喜び・・・
母にとって、そして自分にとって本当に大事な家族の絆を知った喜び・・・
そしてスーツのお礼に粋な演出をしてくれた藤木への感謝と別れの涙・・・
このせつなさこそが聡夏の本当の「はつ恋」なんだ。

棚の上に置かれた写真と遺品。裏側で聡夏と同級生のの男子と父親の何やら幸せそうな会話が聞こえてくる。
「あいつ俺の事お父さんと呼んだぞ・・・」平田さんのとぼけた感じが可笑しい。
涙と笑いの時間差攻撃! してやられた・・・・

[蛇足]
・どうもこの手の映画に弱い。天海祐希『ラストプレゼント』もよかったし。
・音痴でストーカーの聡夏は、間違いなく両親のDNAを継いでいる。
・少女が中年男性にだんだん惹かれていくのはよくある話で、原田知世『早春物語』も似た感じ。でも田中麗奈と真田広之の掛け合いが見事でテーマの古さを感じさせない。
・藤木真一路、会田志津枝。木だとか枝だとか会うだとか、ちょっと安易なネーミング。夏に生まれた聡夏は「なっちゃん」だしね。
・豪快な笑いの運転手白川さんは、昔サントリー純生のCMで「若さだよ、ヤマちゃん!」の名ゼリフを残した佐藤允で佐賀県出身。一方、田中麗奈はご存知サントリーCM「なっちゃん」の福岡県出身。「若さだよ、なっちゃん!」

監督: 篠原哲雄
出演: 田中麗奈 原田美枝子 平田満 仁科克基 佐藤允 真田広之
(2000年.東映)

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