1)邦画

20世紀少年 第2章 最後の希望

――豪華キャスト、バーチャルワールドの深まる謎、テンポよく進むストーリー。のはずが裏目に出て、登場人物が多すぎ、バーチャルの意味不明、詰め込み過ぎで感情移入できないまま終わるモヤモヤ感。オッチョは少し出過ぎ、ここはカンナが主役だよ。(ネタバレ警告)

漫画の「20世紀少年」は読んでいなかったが、映画の第1章を先に見て、これはやはり原作も見ない訳にいかないと思った。
そこに描かれている1970年代の雰囲気やディテールは、浦沢氏と同世代だから面白いほどよくわかる。原っぱの秘密基地、アポロ11号の月面着陸、そして進歩と調和の大阪万博。懐かしいキーワードのオンパレード。ドンキーに追いかけられるシーンで出てくる町中の板塀や、ちらっと見えた?アース製薬のホーロー看板。世界の地名づくしのスナックやハレンチな映画ポスター、当たりの出ない駄菓子屋、学校の理科室などなど。その後の超能力ブームも懐かしいが、世紀末にあちこちで起きたカルト事件はまだ記憶に新しい。リアルというか、嫌な生々しさを感じてしまう。これが漫画をずっと敬遠していた理由である。(注1)

第1章でロッカー人生に挫折して平凡な毎日を繰り返すケンヂが事件に巻き込まれ、追い詰められて、ついに戦いを決意するくだり。押入れのギターを引っ張り出し、がむしゃらにかき鳴らす。今一つ迫力に欠けたかな。でもケンヂの呼びかけに応じて、下水溝の第2の秘密基地に一人また一人と集まるところはいい。最後にユキジが「七人よ!」黒澤だね。続きを期待できた。(注2)

第2章はケンヂ無きあと、原っぱの仲間たちそれぞれが、ケンヂの意志を継いでレジスタンス活動を展開する。しかし圧倒的な支配力を持つ「ともだち」のために歴史は捏造され、勇士はみんなテロリストの汚名を着せられて、あまりにも無力だった。オッチョしかり、ヨシツネも。マルオの決死のシーンも見せて欲しかった。

高校生になったカンナも、歴史の授業中にケンヂおじちゃんの汚名を晴らそうと抵抗するがどうする事もできず、ただただ涙を流す。そういう彼女がおじちゃんの言葉を思い出し、勇気を出して戦いを決意する場面があったかどうか、印象にない。彼女はスプーン曲げや(映画では無かった)カジノで見せた特殊能力だけではなく、もっと神がかりな、人を圧倒し、何かを期待させるカリスマ的な力を持っていた(注3)。カンナが本気になると大きな瞳がさらにカッと見開く。マフィアの親分二人を和解させてラーメンを食べさせるだけではなく、あのカジノの緊迫した場面でカッと見開く瞳をぜひ映像化して欲しかった。ここまで書けば漫画をみたくなるであろう(^^♪

だから教会の場面も原作通りに、ローマ法王殺害を絶対に阻止して見せる!というカンナの強い意志を打ち出すべきだったのだ。彼女が救世主としてきっと事態を打破してくれる!そう信じられるように。そうすれば「しんよげんの書」の言葉に俄然説得力が出てくる。そしてホクロの警官登場で絶体絶命のピンチ。緊張の極致。そこにオッチョ乱入!「カンナは俺達の最後の希望だ!」
ここを前半の山場にすべきだった! この画像がネットに山ほどあふれているのを見るとつくづく惜しいと思う。オッチョは少し出過ぎ。脱走して万博会場を見て唖然とするあたりで止めておき、あとでいきなり乱入シーンの方が盛り上がる。

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生きる(リメイク版・含比較)

――二時間ヒューマン・ドキュメンタリーならば文句なし。でもたとえパロディーでも良いから松本幸四郎に柳沢教授風に演じて欲しかったなぁ~

松本幸四郎と言えば大河ドラマ『黄金の日日』で主人公助左衛門を演じた。乱世に生き、自分の信念を貫き、夢を追い続けた情熱的な人である。
私の好きなドラマだが、レビューがまだ書けない…
しかしまるで『生きる』の渡辺とは正反対のキャラである。

『天才柳沢教授の生活』では、本人は至って大真面目な大学教授なのに、いろいろ事件を巻き起こし(?)、くすくすと笑いを誘う。時間には几帳面で、道も必ずまっすぐ歩き、曲がり角は必ず直角に曲がって歩く。好奇心旺盛という意味では情熱的とも言えるが、真面目さと可笑しさのギャップはこの方の持ち味なんだろう。このキャラで行くのかな? 私は少し期待した。

黒澤オリジナル『生きる』については、すでに全てを書き尽くした。あとはもう自分にその時が来ない限り、新たな感想は出そうも無い。だから今回はリメイク版との簡単な比較でお茶を濁したい。

しかしながらリメイク版は、最初から最後まで真面目に撮り過ぎだ。まるでシリアスな密着ドキュメンタリーのように、カメラが付きっ切りで撮っている感じ。一人称。見る側も心に余裕が無く、主人公勘治につき合わされている。
オリジナルはその点、ブラックユーモア満載。息子夫婦とのやり取りも、大真面目なのに間が抜けていて可笑しい。鬼嫁でさえも単なる我利我利亡者ではなく、義父と寄り添う?若い娘を見て、皮肉な顔をしてニヤリとする。
そうこれこそが柳沢教授的生活。
勘治が深刻になればなるほど、不謹慎だけどフッと笑みがこぼれてしまう。

メフィストを「三文文士(死語)」でなく、息子と同世代の男にしたのは素晴らしい。
一晩で一生分の快楽を味わせて差し上げましょう!
おぉ~このセリフ、なかなかグッときますね。
彼との一夜の思い出は、叶わなかった実の息子光男とのバーチャルな一夜。羽目をはずす柳沢教授、じゃなくて勘治をもっともっと見たかったね。メフィストは自分の死んだ親父を思い出していたと言うが、勘治は息子の事を少しでも思い出したりはしなかったのだろうか?

「老いらくの恋」なんて死語ではなくずばり「援交」。上役のあだ名がミイラしか出なかったが、本当はもっといろいろなあだ名があった。まぁ仕方ないか、死語のオンパレードだから。勘治が立ち直るきっかけとなった犬の縫いぐるみだが、やはりここはウサギでないとギャグにならないだろう。

お通夜のシーン。名場面なのだが、芸達者な役者を揃えた。みんなうまいね。
なのに後日談はよくない。
新体制の市民課。やる気の無いみんなに対してユースケが一瞬でいいからガツンと怒って欲しかった。書類の山に埋もれるシーンもない。ユースケ・あんた無理か?

ラストの助役の選挙カーにあの娘がウグイス嬢をやっている。
子犬を作るのが楽しいと言った彼女は、どこに消えてしまったのか…
黒澤がラストシーンで投げかけた謎掛けは、どこに消えてしまったのか…

演出: 藤田明二
出演: 松本幸四郎、深田恭子、北村一輝、ユースケ・サンタマリア、小野武彦、岸部一徳
製作:テレビ朝日(2007)

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生きる(黒澤明.1952)

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天国と地獄(リメイク版・含比較)

――時代を経ても色褪せない黒澤オリジナル版の凄さを改めて感じる。忠実で丁寧に作り上げたリメイク版は善戦したが、犯人や警部たちの人物像にもっと現代的解釈があってもよかった気がする。

一介の黒澤ファンにとって、リメイクなんて見たくないのが本音。
せっかくの思い入れが壊されてしまう気がするし、両者を比べてやっぱりオリジナルの方がよかったと思うくらいなら、見ないほうがましだと。
しかしリメイクを見て壊されてしまう思い入れなんて、しょせんそんな程度のもの。比べて見るなというのは無理だが、なるほどそう来たか!という比較は結構楽しい。オリジナル版で見落としていた発見があったりもする。

佐藤浩市の権藤金吾は実によかった。設定やセリフはほぼオリジナル通り。三船の荒々しい権藤さんに比べると、佐藤のそれは少しナイーブかもしれない。しかし張り詰めた緊張感の中で、会社を選ぶか人命を選ぶか苦悩する姿を迫真の演技で見せてくれた。

一介の靴職人からのたたき上げ(死語?)で、役員の地位まで登り詰めた苦労人。理想の靴を作りたいという職人気質は、他の役員には疎ましい。頑固さも親父さん(社長)以上。海千山千の古だぬき役員に対して先手を仕掛ける知恵と度胸。その度胸とは裏腹に苦労人だからこそお金の尊さを体で知っている訳だし、奥さんのまたやり直せばいいという説得に反発もする。だからこそ降って湧いたこの事件に自分の全てを問われて苦しめられる。

テレビ朝日のHPでは44歳(10歳の子供がいるのだから30過ぎで結婚した勘定)の設定だが、10歳くらい上のほうがよかった。その方が一人で苦労して来た時間がその分長く、奥さんとの心理的な距離も納得する。47歳佐藤浩市なら十分できたはず(三船が当時43歳で演じていたとは大発見)。

部下川西が裏切ったのは、今まで強くて非情な?権藤が始めて見せた戸惑いに、自分の生涯を賭ける自信を無くしたからだろう。彼の非情さは権藤譲りかもしれない。そうだと佐藤では説得力に欠けるが、三船だと妙に納得する。
運転手青木がペコペコするのを、三船は毛嫌いするが、佐藤はああいうのに弱いと言う。権藤も下積み時代きっと嫌々ながらもペコペコしていたのだろう。三船はそんな自分を見ているようで嫌いなのだろうが、佐藤は同情的に見ている。こうした二人の微妙な違いが最後にどう反映されるのか、楽しみになってきた。

権藤が苦悩の末、身代金を出す事を決めて、銀行に電話をする場面。
古い道具箱を開け、鞄に仕掛けをしながら「最初から出直しだ」と言う場面。
列車の中で身代金を渡す際に戸倉に、子供を良く見てください、と言われ、「大丈夫だ!俺の命と引き換えるんだ!間違えるもんか!」と答える場面。
ああいうのに弱い。ナイーブな私はつい涙目になってしまった。
子供と抱き合う権藤を見て、戸倉が同情と尊敬の念をもって言う。
「あの人のためにも、みんなそれこそ犬になって犯人を追うんだ!」
第2部の始まり、主人公の交代である。

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変身

――人には誰しも心を奪われる美しい瞬間もあれば、果てしなく絶望的な時間もある。しかし自分が自分である事にもっと感謝しなければ・・・

純一は絵を描くのが好きな一人の平凡な工員。毎週通う画材屋の店員恵にいつしか恋心を抱き始める。そんなある日思い切って恵を誘って美しい湖に出かけ、そこをバックに彼女の絵を描き始めるのだが・・・

東野圭吾同名原作のこのタイトルがなければ、間違いなく恋愛映画と思って見続けることだろう。もうとっくに忘れてしまったあの感覚を主人公に重ね合わせるのは少々辛いが、美しい大自然を背にした二人の語らいに思わず引き込まれてしまう。

画面は急転。深い眠りから目を覚ました純一は、白い壁に囲まれた無機質な部屋のベッドの上に横たわる自分を知る。この見事なコントラスト!一人の年老いた医師がやって来て、君は九死に一生を得たのだと語る。しかしいったい何が起きたのか純一は全く覚えておらず、教えてもくれなかった。

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ALWAYS 三丁目の夕日

――高度成長への限りない希望が信じられた30年代、故郷に帰ったような懐かしさと違和感を絶妙に閉じ込めた真空パックの三丁目。

まずは薬師丸ひろ子演じる肝っ玉母さんに拍手喝采! 鈴木モーターズ社長のお父さんを立てながら、しっかり一家を支えている。母親役があまりにもはまり過ぎて、あの往年の『野性の証明』『戦国自衛隊』の少女時代が遠い昔だった事に驚かされる。(失礼!)

そして茶川龍之介の吉岡秀隆。彼は何をやっても吉岡秀隆にしか見えないが、りっぱにインテリくずれ?の青年を演じていた。しかも子供を押し付けられて困り果てる様や、笑わせて泣かせる技は見事に昭和喜劇の王道を歩んでいる(笑いのネタが古くて、わかりやすいが、私は嫌いではない)。逝去10年になる渥美清がもしいたら、面白い絵になりそう。しかし満男もいい親父になったなぁ。(こりゃまた失礼!)

昭和の名子役に負けない演技を披露したのが、須賀健太と小清水一揮の二人。特に古行淳之介の須賀健太は、あの健気な目だけで喜びや悲しさの全てを表現しつくす。茶川を尊敬するまなざし、自分のアイデアが雑誌に載った喜び、後味の悪い母との出会い、クリスマス・プレゼント、そして茶川との別れ・・・その素朴で、素直で、純粋な感情表現に、たいていの大人たちは思わず涙。君は本当に平成生まれなのか?

こうした新旧名子役に加え、堤真一の達者な芸や、堀北真希のさわやかさ、三浦友和の渋さが加わり、妙に懐かしく、しかし実際はあまりよく覚えていない(あるいは全く知らない)はずの昭和30年代が不思議によみがえってくる。これが日本人のDNAに刻み込まれた下町の原風景なのか? そういえば寅さんとタコ社長もそうだが、下町ってお隣同士で喧嘩ばかりしているんだね。

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デスノート(前編)

――「人間って面白!」とさえ死神に言わせる「正義」VS「正義」の壮絶な戦い! でも「正義」って何か?  なんで名前と顔なのか?

退屈(で死にそうな?)な死神が人間界に落としたデスノート。
偶然拾った成績優秀な高校生夜神月(やがみライト)。彼は犯罪者のいない理想的な社会を作るために、彼らを次々と殺していく。やがて世界は騒ぎ出し、謎の殺人者は影の救世主キラとして一部の人間から信仰される。一方世界の警察組織の影の存在、名探偵L(エル)が宣戦布告を。天才VS天才、影VS影の神がかりな頭脳戦が始まった。

新聞の映画欄を見るまで、こんなすごいコミックがあったなんて知らなんだ! 試しに1巻手にした途端、あっと言う間の11巻。最終12巻が待ち遠しい。映画化は無理かなと思ったが、あの平成ガメラシリーズの金子修二監督ならばと思い、久々に映画館へ。
冷静沈着な藤原竜也のライトもよかったが、不思議な松山ケンイチのL、颯爽とした鹿賀丈史の夜神本部長、品性あふれるおひょいさん藤村俊二のワタリ、そしてキモかわいい?リューク。みんな原作からすっーと抜け出したようで、ビミョーにいい感じ。うまいキャスティング。

映画のオリジナルで面白かったのが、法学生であるライトが人間が作った法では犯罪を止められないと悟り、「六法全書」を投げ捨ててデスノートを拾う、ベタでわかりやすいシーン。授業で使う「六法全書」はハンディ版だろうけれど、正式版は分厚くて投げ捨てられないだろうね。人間社会の秩序の集大成である「六法全書」は結構重いのだ。

後半活躍するのがFBI捜査官レイ(仮面ライダーに変身できず無念の細川茂樹)の恋人ナオミ(瀬戸朝香)である。元Lの部下でもあった彼女が、推論を重ねたあげく命懸けでキラに近づいていく。ここがこの『前編』のクライマックス。未見の方のために書かないが、2つだけ。絶体絶命のキラが、ペンを取り出そうとするが、あれはおかしい! というのは、もしキラが******ならば、******なはずがないから。また****まで殺すのはキラの「正義」の信念と矛盾している気もする。

でもまだまだ『前編』は小手調べ。キラとLとの本当の戦いは10月公開の『後編』から。お楽しみはこれからだ。

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事件

――シンプルな題名に隠された「事件」のドロドロとした人間模様と裁判制度への鋭い視点。

 東京近郊の静かな町の山林で、女性の刺殺死体が発見される。スナック経営のハツ子(24)(松坂慶子)だった。幼なじみの工員上田宏(19)(永島敏行)が逮捕されるが、彼はハツ子の妹ヨシ子(19)(大竹しのぶ)と同棲しており、ヨシ子は妊娠していた。宏は殺人を認めているものの、記憶もあいまいだった。公判が進むに連れて、ハツ子のヒモ、宮内(渡瀬恒彦)が登場、被害者の過去がしだいに明るみに・・・。
検事官(芦田伸介)と弁護人(丹波哲郎)の火花飛び散る法廷合戦、そして中央にドンとすわる重厚な裁判長(佐分利信) 。これだけのキャスティングで面白くないはずはない!
でもそれだけではない・・・
 

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亡国のイージス

――亡国への憂いがテーマなのに肝心の「国家」論が無い。甘いテロ対策への警鐘で終わってしまった。

あの膨大な原作を読まずに、映画館での上映があと数日で終わるギリギリに駆け込んだ。どなたかが「小説の総集編」と言うように、原作を見ないと意味不明のシーンが多いが、結局読んでもわからない部分もあった。冒頭の交通事故や通夜のシーン?はほとんど記憶にない。先任伍長が町でケンカをした部下たちのために警察に土下座する。「こいつらを勘弁してやってください。」みたいな事を言ったけど、これでは『ごくせん』のヤンクミだ。如月行のずば抜けた運動神経と、伍長の「ぶざまでもいいから生き抜け!」という人生哲学を物語る大事な場面。浪花節。しかしこれって、もみ消しだろう?少し部下に甘くないか?

溝口らFTGのメンバーが乗り込んで「いそかぜ」が運命の出航をする。夜の甲板の場面で如月が無口で芸術家タイプなのは理解できたが、20歳そこそこの青年が暗い過去と重い任務を背負った特別な存在だとわからせるには演技だけでは難しいね。その彼が唐突に事件を起こす。小説では事件の背景や人物像等が好き放題書いていたけれど、映画では意外とあっさり大事件が発生する。伍長にとって全てが唐突なのだ。訳のわからぬまま捕獲され、主犯格が正体を現わすと、ここからようやくテンポのいい展開になる。絶対絶命の条件下でどうやって乗っ取られた艦を取り返すか?入り組んだイージス艦の内部を縦横無尽に動き回り、まさに最新機器で囲まれたジャングルの中でゲリラ戦が展開される。いいぞ頑張れ真田さん!

『沈黙の戦艦』『ダイ・ハード』『ザ・ロック』等、冷血無慈悲な悪玉テロリストとの戦闘映画は枚挙にいとまがない。しかしこうしたテロリスト集団が相手ならともかくも、同僚の自衛官を相手の奮闘は伍長も煮え切らない。奪われた母艦を取り戻すため、首都東京の住民を守るためなのだが、そもそもどうして彼らは謀反を起こしたのか?政府への要求で一応の説明はついたものの疑問は残る。子息の内部告発文章と事故死に見せかけた暗殺、隠蔽された化学兵器事故について公表せよと言うが、こうしたみそぎを済ませれば単純に全て解決するのだろうか? 寺尾さんの『半落ち』のイメージが強い。いい人だけれど家族を大切にするために組織や社会を裏切る。その切なさと決意は伝わるが、どうも私憤の域を出ないと思われる。肝心のテーマであるはずの亡国への憂いとか理想の実現とかが小説でさえもきちんと描ききれていない。ヨンファも憂国の士のはずなのに、映画では「これが戦争だ!」と叫ぶだけの単純なテロリストだったし、小説でも妹の死を契機に凶悪な復讐鬼に成り下がっている。

人は何のために戦うのか? たとえば、先任伍長が奪われた母艦を取り戻すため、あるいは首都東京の罪もない一千万の命を守るため、あるいは大切な家族や友人を守るため。その気持ちが尊いことに間違いはない。その延長に祖国愛があってもいい。しかし「国家」とは常に守られるべき弱き存在ではない。時として戦争が始まれば「国家」の名の下に人々は徴集され、残酷な破壊活動に駆り出され、やがて首謀者の意図や制御を振り切って、相互の破滅へと突き進むこともある。ちょうどヨンファ亡き後も制御を失って東京へと突き進む「いそかぜ」のように。この映画に限らず、最近の戦争映画は、守るべき「国家」ばかりが強調しすぎるきらいがある。

『ザ・ロック』のニコラス刑事の時はもう少しスマートだったが、先任伍長はぼろぼろの体を引きづり、仰向けになって手旗信号で監視衛星に爆撃中止の合図を送る。最後の一か八かの賭けである。衛星からはコミカルな動きで、彼の必死の形相が見えてこない。でも「ぶざまでもいいから生き抜け!」という伍長の信念に私は泣けた。(防衛庁情報局ダイスの渥美さん、手旗信号くらい、すぐに解読しなさい)

最悪のシナリオは免れたものの、政府は東京湾に沈んだ「いそかぜ事件」を「無事に」隠蔽できたのだろうか?だとしたら艦長らが命がけで提起した命題は再び闇に葬られたことになる。ダイスは存続できるのか?そもそも事件の種を作り、情報を事前に入手したにもかかわらず、如月一人を送るだけで事件を阻止できなかった責任は重いと思う。不思議だったのは、化学兵器を盗まれた某国が表に一切出ようとしないこと。小説では日本に責任をなすりつける記述があったものの、腑に落ちない。違法な武器開発は他の国が指摘すれば大きな国際問題に発展し、両国のトップが辞任するだけでは済まないはずなのに後日談にそんな記述も懸念もない。要するに亡国への憂いがテーマなのに肝心の「国家」論が無い。結局甘いテロ対策への警鐘で終わってしまった。

監督: 阪本順治
原作: 福井晴敏
出演: 真田広之、寺尾聰、佐藤浩市、中井貴一、勝地涼
(2005.日本)

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女王の教室

――「世界一受けたい授業」に続きまして、真矢コングの入場です!

おい!世の中のちゃらちゃらした小学生や親たち!
今日はお前らに言いたいことがある! よーく聞け!

一つ、勉強なんてしなくったって、世の中は生きていけるんだよって言う小学生。
生きていける?はぁ?
幸せになれる人は競争社会に勝ち抜いてきた6%の人間だけなんだよ。
あとの残りは、その人のために苦労して働いて税金納めて生きていくんだよ~このヤロ~

一つ、子供達の自主性を育てたい、自由が大事なんですって言う親や教師。
自主性?自由?はぁ?
だいたい世の中にはルールっていうもんがあるんだよ。ルールを無視する奴に自主性とか自由とかを与えるから、よけいルールが守られないんじゃねぇか~このヤロ~ (退場)

――「女王の教室」に続きまして、「エンタの神様」の本家○○コングの入場です!

おい!世の中のギスギスした黒服の先公!
今日はお前に言いたいことがある! よーく聞け!

一つ、授業以外で私に話しかけていいのは成績上位の2名だけです、って言う先公!
成績上位の2名だけ?はぁ?
お前は上位2名どころか、代表委員の由介や和美にも随分話しかけているじゃねぇか~
だったら真ん中の20名くらいの生徒にも脅すだけではなくて、少しはかまってやれってんだよ~このヤロ~

一つ、成績がよくても私に逆らってる限りバツを与えますから、って言う先公!
私に逆らう?はぁ?
だいたい成績の悪い奴に代表委員をやらせるって言ったのはてめぇだろ!
自分で作ったルールに例外を作っておきながら、私に逆らうなって言うのはおかしいんだよ~このヤロ~

一つ、トラブルを起こすような人がいたらグループ全員の連帯責任にします、って言う先公!
トラブルを起こす?はぁ?
そんな服装や喧嘩の監視なんかさせてる暇あるなら、グループ内で勉強教えあって、よそのグループより平均点が上がるように競争させた方が、よっぽど成績上がるんだぜ。
世の中、会社の中で自分が一番になるよりも、その会社が業界で一番にならなきゃ生きていけねぇんだよ。だから勉強の時だけは個人プレーさせて、風紀チェックだけは団体プレーって言うのがおかしいんだよ~このヤロ~ (退場)

と言うことで、女王様の言うことに正しいこともあるのだが、間違いもたくさんあるんだ。
『ごくせん』の時だって少し変だなと感じたこともある。
でもヤンクミは自分の間違いを素直に認めるだろうけれど、
真矢の間違いを指摘するのはむずかしい。
私、電影道士でさえ、○○コングの力を借りないと、本人の前では言えないのだ。
そう言えば、ドラマ『アタックNO1』の猪野熊監督もずいぶんと、選手をいじめていたけれど、
あれも愛情だったのか? 女王様の愛情表現も理解するのがたいへん。

でも私はこのドラマを高く評価したい。多少表現がえげつないし、こんな先生ありえない~ウソくさい~なんて思うけれど、現実の教育問題はもっと厳しいのでしょ?
ここで取り上げている問題を、クラス会でみんなで話し合ったり、家庭で子供と向き合うのも有意義なのでは。
このまま見たままだけだったら毒かもしれないけれど、10倍に薄めれば薬になる。

最終回がどうなるか、楽しみ。私はある結末を期待している。
途中で打ち切りになると、問題が一生解決しないまま、ずっと尾を引くことになる。
それこそトラウマになる。どうぞ、最後まで見させて欲しい。

主演の天海祐希は偉い。こんな汚れ役、よくぞ引き受けた。
エンディングのあの笑顔がなかったら、みんなあなたのことを誤解してしまう。
何ですか? 私の出身の宝○は、もっと厳しかった? なるほど・・・

脚本:遊川和彦
主演:天海祐希、志田未来
(2005年。日本テレビ系)

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隠し砦の三悪人

――血沸き肉踊る冒険活劇。でも、何か見逃していないか? 隠し砦に何かがある。

時は戦国。又七、太平のいがみ合いで始まる冒頭は、『スターウォーズ』であまりにも有名。
手柄を立てようといくさに出たが、散々な目に遭って逃げ出した二人。お互いに相手をなじり、隙あればうまい話を独り占めしようとする、強欲のかたまりのような二人。

その二人は偶然拾った薪の中の金塊がきっかけで、六郎太を手伝って金二百貫を運ぶ羽目になる。二人は六郎太が金塊を不正に手に入れたと思ったからだろうか、最後まで隙あれば横取りすることばかり考えていた。もっとも六郎太の正体を知ったところで、彼らに忠義心があるかどうかは疑問であるが。

出発直前、六郎太が妹を雪姫の身代わりとして役人に差し出したことを、雪姫はなじる。「妹を殺して涙一つ流さぬ、その忠義顔! 嫌じゃ!」と言い残し、怒って出て行く。側にいた姥は、そういう姫こそ涙も流さずに六郎太を責めるのは姫のわがままだと嘆く。しかし雪姫はそのあと、山中で人知れず大粒の涙を流して泣くのであった。

親兄弟、味方や主人にさえも騙し、殺しあう、この乱世の時代。
六郎太が妹を犠牲にしてまでも姫を救ったならば、これ程までの忠義心はないはずだ。しかし姫がそこで泣いてしまったら、六郎太の立つ瀬が無い。彼女は領主としてこの非情な選択を受け入れつつ、その無情さに言い得ぬ怒りと悲しみを感じた。だからこそ一人で大泣きしたのだ。16歳の姫にとっては大きな試練である。
はたして忠義心とは何か? そのためにはどんな犠牲も仕方ないのか? 吹っ切れない何かが残る。

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